ロバと拓く山里の未来。色川発、実験実践プロジェクト
Our Project

今から70年ほど昔。この村では多くの家庭が一頭の牛を飼っていました。労働を、機械ではなく動物が助けてくれた時代の話です。
半世紀が過ぎ、村の人口は10分の1に。かつての田んぼに、かつての畑に、青々とした草が猛々しく生えるーーそんな田畑を前に、私たちは気づきました。
今もう一度、動物の力が必要だ、と。
穏やかな顔で草を喰み続け、傾斜地をものともせずに歩いていくロバ。彼らには、ガソリンも電気も必要ありません。草を喰むロバの姿に、10年20年、その先もずっとこの場所で生きていく希望を感じました。
ロバと暮らし、ロバと働き、ロバと生きる。
山里のコンテクストを、受け取り、紡ぐ。
この土地で未来を描くための小さな実践。
山里・色川ではじめた、私たちの生存戦略が、「ロバと+」です。
私たちが描く山里のあり方。動物の力を借りて暮らし続けたい
The future and philosophy we envision

私たちにとって、ロバは、ペットでも観光のための動物でもありません。草を食べて肥やしに変え、荷を運ぶーー山里の循環を支えるパートナーが、ロバたちです。
私たちが暮らす旧色川村は、人口300人ほどの山間の集落です。毎年少しずつ人口が減っていくなか、耕作できない集落内の土地が増えています。草刈りはどうしても必要な仕事ですが、その負担は年々大きくなるばかりです。
休耕地に生える厄介な草を、プラスに変えてくれる存在があります。それが家畜です。とくに私たちが可能性を感じているのが「ロバ」です。身体が比較的丈夫で青草が主食。休耕地に生え、刈ることが大変な強靭な草、カヤを好んで食べ、傾斜地に強い強靭な脚も持っています。
ロバから排出された糞は、良質な堆肥になり、野菜や米、茶などの栽培に活かすことができます。
ロバによって草刈りの負担を減らし、資源が循環する山里へ。ロバの粗放的放牧というアイディアを軸に、中山間地の課題を解決し、希望を持って生きていける地域をつくっていくこと。それが、私たちがこのプロジェクトで実現したい未来です。
ロバと+ で私たちがすること
What we do
私たちはこのプロジェクトで、以下のようなことを実践していきます。
- 健やかにロバが暮らす環境を整え、飼育する
- ロバによる事業で経済的価値も生む
- 地域におけるロバの有用性を観察し、研究する
- 観察・研究の成果を記録して発信する
- 繁殖によって頭数を増やし、集落及び他中山間地での飼育を推進する
- 中山間地域におけるロバの導入をサポートする
- ロバを通じ、外部の人との新たなつながりを得る
- ロバをきっかけに、ここで一緒に暮らしていく住民と出会う
運営する私たちについて
About us
このプロジェクトは、那智勝浦町旧色川村に住む2軒が協力して実施するプロジェクトです。
らくだ舎(千葉貴子・智史)

2015年、2016年に色川に移住。夫婦ふたりと娘ひとりで、木・金・土の週3日、本屋や喫茶室、食品販売を行う生活文化協働拠点「らくだ舎」を運営しています。それ以外の日は執筆・編集業、2023年から始めた自分たちによる書籍の出版の仕事のほか、さまざまな地域活動に携わっています。2025年3月から、らくだ舎の裏に小屋を建て(てもらい)、ロバ・ミミオレの飼育を始めました。本プロジェクトでは、研究・発信、地域内外でのロバ飼育の推進、オンラインコミュニケーションの領域を担当していきます。
https://rakudasha.com
農家民泊JUGEMU(壽海千鶴・真也)

2014年に色川に移住し、夫婦で農家民泊を営んでいます。「この地域で暮らし続けるには」そんなことを考えて調べているうちに、「ロバに可能性がある」という仮説に辿り着き、譲ってくださる方を探し、2022年からロバ・ガスパルを飼い始めました。本プロジェクトでは、本業である農家民泊の施設と経験を活かし、ロバを通じて出会う皆さんとのリアルコミュニケーション、中山間地域におけるロバ飼育のサポートなどを担当します。
https://irokawamura.com
私たちと暮らすロバたち
Our Donkeys
ガスパル(♂・おおよそ6歳)

色川にやってきたのは2022年。やんちゃで好奇心旺盛、鼻で鍵を開けたり、棒をくぐったりするのが大得意。時折脱走しますが、追いかけなければ立ち止まることも。大きな声で鳴きますが、それはきっと寂しがりやだからです。立派な体格で、こげ茶色と灰色の間くらいの毛色と白色の2色の色合いがロバらしい。今後は荷物の運搬などにも活躍してくれる予定です。
とくに好きな食べ物:柿、ススキのふさふさした部分



ミミオレ(♀・おおよそ4歳)

2025年3月にやってきたメスロバ、ミミオレ。名前の由来は、幼い頃にオス同士の争いに巻き込まれて負傷し、折れたようになってしまった右耳の様子から。穏やかでやさしく、人懐っこいが、タイミングの合わないオスロバには厳しい。白く長いまつげと、くせっ毛が可愛らしいロバ。色川に越してくる時には身籠っており、2025年8月、初産ながら無事にカフェラテ(♀)を出産し、娘を思いやる素敵なお母さんになりました。しかし、ひと月半でラテは病死。今もどこか寂しそうな表情を見せる日々が続きます。来春に、ガスパルとお見合いをして、夫婦になってくれることを願っています。
とくに好きな食べ物:柿、バナナ(皮含む)、短めの草(芝など)、香りの良い稲藁



私たちが暮らす、和歌山県旧色川村とは
Our Village
私たちが暮らしているのは、和歌山県の南東部に位置する、那智勝浦町の色川という山里です。旧色川村が那智勝浦町に合併して色川地区となりました。世界遺産・那智山の西側に位置する自然に恵まれた集落で、石垣の美しい棚田や昔ながらの暮らし、あたたかな人のつながりが残っています。2025年11月現在、人口は300人。色川は約50年前から移住者を受け入れてきた歴史があり、現在、人口の6〜7割が、他の地域からこの地を選び、移り住んできた人たちが占めています。地元住民の皆さんと一緒に、この地域を残していくにはどうすれば良いか?この地域を残すとはどういうことか?そういったことを一つ一つ考え、話し合い、自分たちで行動しています。
移住者が多いことで、成功した地域と捉えられることもありますが、事実として人口は減少の一途を辿っています。少数の住民に負担が集中し、疲弊していくなか、この集落の未来を真剣に考え、良い方向に向かっていくために行動していくべき時がきていると感じています。
