
ロバという家畜の世界史
日本には多くて300頭ほどしかいない、と言われているロバ。しかし、世界に目を向けると、今日まで人の生活を支える家畜として、ロバは人々の生活に欠かせない動物として活躍しています。
日本では、家畜といえばその中心は牛や馬になるでしょう。牛耕馬耕、のほか、牛車、乗用手段としての馬など、歴史の絵巻物などにも多く書き残されている印象があります。ロバはいったいどのくらいの年代から世界に存在していて、家畜化されたのはいつなのか?あまりにもロバについて知らないことが多くあります。
今日は、私の手元にある『人類と家畜の世界史』(ブライアン・フェルガン著、東郷えりか訳・河出書房新社)から、ロバの家畜としての歴史を一部紐解いていきたいと思います。
家畜化された動物として、ロバは「六番目」。
本著によれば、人間にとって特別な関係を結んだ最初の動物は「犬」だった。
1万5,000年以上前に、人とオオカミのあいだの、親しみをもち尊重し合う関係は、協力し、相棒になる関係へと発展した。
『人類と家畜の世界史』以下引用文は同著
そして、1万2,000年前から、「人々が動物を家畜化した波乱に富む数千年が始まった」。家畜化された動物はまずはヤギ、羊、豚、そのあとすぐに牛が続いた。最初の駄獣(だじゅう・背中に荷を載せて運ぶ動物)となったのも、牛だった。そして、紀元前2,500年までに、動物が荷を運ぶ役目を負うことが世界中でスタンダードになっていく。そして、登場した六番目の家畜化された動物、それがロバだった。馬よりもロバの方が早かったということに驚いた。
歴史においてきわめて重要であったのは、六番目の動物である地味なロバであり、のちにはロバとウマの交雑種であるラバになった。キャラバンで使われた最初の動物はロバであった。ラクダよりずっと以前に、まだ遠距離の輸送は海路に頼るしかなかった時代に、ロバは乾燥地の陸路の旅を様変わりさせた。ロバはエジプトという国家の成長を促した触媒であり、何百年にもわたって南西アジアの広大な地域を結びつけ、軍隊に物資を供給し、馬が二輪戦車(チャリオット)を引くよりも遥か昔から支配者を運んでいた。
そして七番目に馬、八番目にラクダと家畜化された順番は続く。馬と人間の絆が強調される一方で、ロバは使役動物として酷使されていた、と記されている。馬は賢く、ロバは愚かである。そんなイメージは、過去から今へと受け継がれてきたものなのだろうか。馬も同時に飼ってみなければわからないことだが、私が今感じていることとしては、充分にロバは賢く、人間と絆を育むこともできる。なぜこんなにも、馬とロバは、同じ種でありながらもその扱い、存在の認識に違いが生まれていったのか・・・まだよくわかない領域だ。
人間が実際にいつどこでロバを家畜化したのかは謎のまま
本著によれば、ロバがいつどこで家畜化されたのかという問題について、はっきりとは判明していない。祖先と思われる動物の一つは、今では絶滅寸前のアフリカの野生のロバ、アフリカノロバである。
野生のロバは、北アフリカのいくつかの地域で飼い慣らされた可能性が高いが、その一つがサハラ砂漠だった。
乾燥の進むサハラ砂漠で、過酷な状況に適応できたロバは、牛に比べて荷を運ぶことにとても適した動物だった。ある時期から、ナイル川流域でもロバは使われ始めた。ナイル川流域で見つかった最古のロバの骨は、少なくとも紀元前4,000年のものだという。
初期のファラオたちの埋葬された墓の中には、ロバが丁重に安置されたものもあるらしい。王のための荷を運んでいたことを示している。これらのロバは、今日みられるロバよりも大型で、四肢が細いと書かれていた。
5,000年以上、人間の傍らで働き続けるロバ
家畜化された動物はいずれも、なんらかのかたちで人間の暮らしを変えた。ヤギと羊は多くの自給自足農民にとっての日銭であった。牛は王権の力強い象徴となった。これらの動物のうちいずれも、ロバほど歴史の道筋に大きな影響を与えた動物はない。例外があるとすれば、ステップの生き物である馬だけだ。馬は足が速かったが、乾燥地を旅するロバのような能力はなかった。ロバの方が頑強で、維持費がかからず、隊商のような日常的に困難な世界では頼りになった。丈夫で、訓練し易いロバは、少なくとも5,000年、おそらくそれ以上の歳月にわたって人間とともに身を粉にしてきたのだ。(中略)多文化の世界を生みだすのに一役買った。彼らがいなければそんな世界の実現は考えられなかっただろう
本著を読み、気候にももちろんよるが、いかにロバが家畜として飼いやすい動物であるかということがよくわかる。気候変動により、最高気温が世界中で更新されていく現代においても、おそらくその性質は適合しているのではないだろうか。日本で家畜としてロバが普及しなかったことは家畜7大不思議のひとつと言われているらしいが、気候が変わってきている今、ロバの有用性に目を向けるというのは理にかなっているのではないか?そんな期待を持った。
